乙の罪責-業務上過失致死罪

目次

第1序論
第2本論
1 総説
2 業務上過失罪
(1)総説
(2)「業務」
(3)「(業務上)必要な注意を怠った」
(4)結果発生
(5)結論
3 虚偽診断書作成罪
4 同行使罪
5 犯人隠避罪
6 証拠偽造罪
第3結論


引き続き、予備試験平成29年刑法の乙の罪責を検討する。

第2 本論

2 業務上過失罪

(1)総説

ア 検討
内容の確認

1のブロックで論じるべきことを確認する。
刑法においては、条文上に規定されている構成要件を全て満たすことによって、その犯罪が成立する。
そのため、基本的には問題となる犯罪(条文)を指摘し、その構成要件を1つ1つ確認していけばよい。
1のブロックでは、劇薬YをVに注射した行為に対して業務上過失致死罪(211条前段)の成否を検討する。

犯罪の成否の検討

犯罪の成否の検討は、構成要件を1つ1つ確認することによって行われる。
該当することが明らかな構成要件に対しては淡々と当てはめればよく、該当するか微妙である構成要件に対しては、解釈を展開し、事実を当てはめていく必要がある。
業務上過失致死罪の構成要件は、「業務」、「(業務上)必要な注意を怠った」こと、「人を死」亡させたことである。

総論的体系の意識

犯罪の成否を検討するためには、構成要件該当性だけでなく、刑法の総論的体系を意識する必要がある。
犯罪の成否の検討は、構成要件、違法性、責任の順番に行われる。
基本は構成要件該当性を確認していく作業であり、事案に応じて必要的に違法性阻却事由や責任阻却事由の存否について検討していくことになる。

検討すべき事項の確認

本問で検討すべき事項を確認する。
犯罪の成否を検討する際の基本は、構成要件を検討することであるから、上記のそれぞれの構成要件について検討する必要がある。
また、本問では、違法性阻却事由や責任阻却事由を検討すべき事情はない。
そのため、今回は構成要件のみを検討すればよい。

構成要件の類型

構成要件は、客観的構成要件と主観的構成要件の2つがある。
客観的構成要件は、実行行為、因果関係、結果の要素が含まれる。
主観的構成要件は、構成要件的故意のことをさす。
これらについて、問題となる点があるか検討していけばよい。
しかし、先に述べたように、乙の罪責についてはコンパクトに論じる必要がある。
それぞれの構成要件について長々と論じていては、とても4ページでは収まらない。
それぞれの構成要件について、その意義を示し、淡々と当てはめていくだけでよいだろう。

イ 構成の決定
内容の決定

1のナンバリングでは、検討すべき行為及び犯罪を提示することになる。
乙の罪責について、コンパクトに論じる方針であることは散々述べている。
業務上過失致死罪については、それぞれの構成要件について意義を示すことができるから、余裕があれば下位展開を行ってもよいだろう。
1のナンバリング部分では、行為と犯罪を提示するにとどめ、個々の検討は下位のナンバリングを展開して行うことにする。

下位展開の問題

1のブロックで検討すべき行為及び犯罪は確定している。
そして、検討すべき事項もすでに決定している。
問題は、これらをどのようにして論じるかということである。

レベルを揃える

ナンバリングでは、レベルを揃えるべきである。
実行行為性と実行の着手時期、結果、そして故意は構成要件要素である限りにおいてそのレベルは同一であるから、ナンバリングのレベルは揃える必要がある。
そのため、(1)のナンバリングで「業務」について、(2)のナンバリングで「(業務上)必要な注意を怠った」について、(3)のナンバリングで結果についてそれぞれ論じることにする。

下位展開の決定

また、構成要件該当性を要素に分けて検討した以上、最後はそれを一つにまとめて、犯罪の成否の検討に対する結論を示す必要がある。
1のブロックで検討している事柄は、劇薬YをVに注射した行為に対して業務上過失致死罪(211条前段)が成立するかである。
そのため、(4)のナンバリングで犯罪の成否に対する結論を示す。
これにより、1ブロックのナンバリングの下位構成が決定する。

(2)「業務」

内容の確認

業務上過失致死罪における「業務」とは、社会生活上の地位に基づき、反復継続して行う行為であって、他人の生命身体に危害を加えるおそれのある行為をいう。
この規範に照らして、乙の内科医師としての注射行為を検討するだけで十分だろう。

(3)「(業務上)必要な注意を怠った」

内容の確認

過失犯において、過失の検討は重要事項である。
しかし、本問においては、問題文に、乙にVの死の結果について刑事上の過失があることがすでに示されている。
過失について詳細に検討してほしいなら、問題文にわざわざ「刑事上の過失」という書き方はしないだろう。
過失については、端的に当てはめてよいという作成者からのメッセージだとも考えられる。
端的に当てはめるだけで十分だろう。

(4)結果発生

内容の確認

続いて、死亡という結果の発生を指摘する。
乙がVに劇薬Yを注射したことにより、Vが心臓発作を起こして死亡したことは問題文から明らかである。
そのため、「よって人を死」亡させたことも端的に当てはめるだけで十分だろう。

(5)結論

内容の確認

(4)のナンバリングでは、犯罪の成否についての検討結果を述べる。
1のブロックの問いは、劇薬YをVに注射した行為に対して業務上過失致死罪が成立するかということであるから、これに対する結論を示すことになる。
「上記行為に業務上過失致死罪が成立する。」または「上記行為に業務上過失致死罪は成立しない。」。
結論としてはこのいずれかになるだろう。

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